物事をいろいろな角度から見ることが、適切な判断をする上で大切だと思うから、個人的にはなるべくそのように心がけています。
最近(一部で?)話題の「特定秘密保全法案」ですが、なかなか参考になる意見に出会いましたので、この法案に興味を持っている人や、そうでない人にも、ぜひ知ってもらいたいと思い、「ホワイトホール61番地 ~インテリジェンスを学ぶ」というブログから転載させてもらうことにしました。


秘密保全法案に対する国民の反応

最近の時事通信の世論調査によりますと、特定秘密保全法案について「必要だと思う」と答えた人は63.4%、「必要ないと思う」は23.7%だったそうです。この世論調査では「この法案には国民の知る権利や報道の自由を制限しかねないとの異論もある」との説明後に賛否を確認していますので、これは驚異的な数字だと言えます。つまり国民の多くが何らかの秘密保全の制度が必要であると感じているようです。

この数字に危機感を感じたのか、この所、報道機関や法曹界、日本ペンクラブ、さらには某女優までが、秘密保護法案に反対の大合唱を繰り返しています。「秘密保全法は国民の知る権利や表現の自由を奪う」という謳い文句で、国民の不安を煽る戦法のようですが、はっきり言いますと秘密保全法案は大多数の一般国民にはほとんど影響のない話です(ただし「特定秘密保全法」という直球のネーミングにはやや不安を煽られます。「政府の情報が漏れないようにするための法律」ぐらいが良かったのでは・・・)。ネットで色々な意見を拝見していますと、少数派の反対の声はとても大きいのですが、多数派の賛成の意見はほとんど見かけないので、少し補足しておこうと思います。

政府の狙い

個人的には、今回の秘密保護法案の最大の狙いは、政府内、そして外国政府との秘密の標準化にあると考えています。現状では、防衛省・自衛隊のみが独自の自衛隊法(懲役5年)と米国との秘密規定(懲役10年)によって秘密を守っていますが、その他の省庁は国家公務員の守秘義務違反(懲役1年)しかありません。さらに各省庁で秘密に対する認識が異なっており、個人的な印象では、国内系の官庁は秘密には比較的寛容ですし、逆に警察などは秘密主義的なところがあり、秘密でないものもでもとにかく厳重に保管しているようです。

このような状況では、各省庁間や官邸、さらには外国政府との情報共有などとてもできません。現状で隣国が我が領土に侵攻してくるような場合を想定しますと、恐らくまずは米国が衛星や通信で察知し、その情報が日本政府に知らされるべきなのですが、もしかしたら米国は日本の秘密保持に懸念を抱いて教えてくれないかもしれません。そうなりますと自衛隊か防衛省情報本部あたりが最初に侵攻の徴候をキャッチするでしょうが、そのような情報は防衛秘にあたりますので、他省庁とこれを共有することができません。例えば外務省にこの情報が渡らなければ、外務省は外交ルートで相手国に情報を確認することができません。防衛秘だと内閣官房にもそのままでは上げ難いので、結局首相補佐官を通じて官邸に直接上げるしかないのですが、いきなり総理に専門的な情報を上げても、総理がそこで迅速な決断を下せるかどうかは極めて難しい問題です。

となりますと、確認が取れるまでは動かないほうが良い、下手に相手を刺激しない方が良い、という無難な方向に流れてしまうでしょう。情報によって事前の策を投ずるのと、問題を先送りしている間に領土の一部が占領されていた、ではその後の対応が大きく変わってきます。秘密が統一されていない状況では、新たに国家安全保障会議(NSC)が設置されたとしても、状況はあまり変わらない気がします。政府の各組織がそれぞれの情報を共有できるようになるためには、政府で統一された秘密を指定しておき、各省庁が同じ基準で情報を扱えるようにしておかないといけないわけであります。実にシンプルな話です。

情報の不開示について

ところが反対派は国民の知る権利、特に原発問題に絡めて論点を逸らしているような印象です。はっきり言いますと、原発に関わる情報の公開は「公共の安全及び秩序の維持」に関わらない限りは問題ないと思います。ただ核燃料の輸送などに関しては、それがテロ組織などに狙われると大事になるという理由で、情報の不開示を決定した判例は存在しています。さすがにこれは仕方がないという印象です。

反対派は、秘密保全法案の適用範囲が曖昧なために、政府が「秘密」を拡大解釈してなんでもかんでも情報を隠すような、戦前のイメージで懸念を抱いているようです。ただ情報の開示・不開示については、既に1999年の行政機関情報公開法で規定されていまして、不開示とすべき情報については規定(第5条)が定められています。つまり今回の特定秘密保全法案は、不開示とすべき情報について新たに、①防衛、②外交、③外国の利益を図る目的の安全脅威活動の防止、④テロ活動の防止、というカテゴリーを追加したにすぎません。これら分野において、どのように秘密を指定するのかについてはその曖昧さが批判されているようですが、この点については行政機関情報公開法に則って処理すべき問題であります。同法律の規定に拠りますと、情報を開示することによる公益と非開示にすることによる利益を慎重に検討して、開示か不開示かが決定されますので、単純に政府に都合の悪い情報を隠すといったことはかなり難しいと思います。

ただそれでも公開されるべき情報が隠蔽される可能性は残る、という批判が出てくるかと思いますが、そこまで完璧な制度や法律を求め出すと何も動かなくなるのは明白です。これでは「反対のための反対」でしかなく、もう少し情報保全法を導入した際の利点と欠点を冷静に比較して結論を出すことが望まれます。個人的には、情報保全法は国民の知る権利を侵害するようなものではなく、政府の中で情報の共有を妨げている根本的な問題に対する処方箋であると考えます。また国が秘密を管理できなければ、核や生物化学兵器の情報などがテロリストの手に渡る危険性も考えられますので、秘密保全の制度整備は必要ではないでしょうか。現場では秘密の規定が曖昧なために、とりあえず何でも「秘」にしておいた方が安全、という考え方もありますので、むしろ秘密保全法を早急に導入し、何が「秘」で何が「秘」でないのか明確にした方が、はるかに健全だと思います。

報道の自由
 
もう一点、やや穿った物の見方をしますが、報道機関が「報道の自由」にこだわるのは、政府から内々に情報を得ることが報道機関の死活的問題になるからだと思います。つまり報道機関は、政府と国民の間にある情報格差の間に立って報道を行っている側面がありますので、政府から内々に情報を得られなくなることはよろしくないわけであります。逆に政府が「じゃあ情報保全はやめます。すべての情報や行政文書はネットで速やかに公開します」と開き直っても、報道機関としては困ってしまうわけです。ですので、反対派にも脊髄反射的な反対と、色々な利害関係を勘案した結果の反対と色々あるのかと想像します。ただ報道の自由に関しては、政府も最近になって配慮を見せていますので、そこまで過敏になることもない気はします。
 
いずれにしても特定秘密保全法案は公務員と一部の政治家、そして報道機関に関わってくる問題で、一般の国民にはほとんど影響のないものだと考えます。政府的には秘密の標準化とある程度の厳罰化、報道機関にとっては情報源が保障されれば、それ程悪い話ではないと思うのですが。。。


ひみつ