先日、益田の「栗栗珈琲」で行われた「ブルース・ザ・ブッチャー」のライヴでも素晴らしい演奏を披露していた沼澤さんが語るグルーヴについての話から学ぶことは多いと思う。
グルーヴって、音楽にとってだけじゃなく、人間関係にとっても大事なものなんだね。



沼澤 尚(ぬまざわ たかし)
ドラマー。
大学卒業と同時にLAの音楽学校PITに留学し、ドラムを学ぶ。
ジョー・ポーカロ、ラルフ・ハンフリーらに師事し、卒業時に同校講師に迎えられた。
その後チャカ・カーン、ボビー・ウーマックなどのツアー参加をはじめ、数々のアーティストと共演しながら13CATSとしても活動。
2000年からは日本国内でも活動を始め、多くのレコーディングやライヴに参加している。
現在は、blues.the-bucher-590213、OKI DUB AINU BAND、DEEP COVER、THEATRE BROOK、iLL、Levona、東田トモヒロ、EXPE、マルコス・スザーノ、内田直之などで活動中。

沼澤尚、「ほぼ日」スタッフに語る
(「ほぼ日刊イトイ新聞」サイトより一部転載)

□ほぼ日
沼澤さんやギャドソンさんがドラムをプレイするのと、われわれ素人の演奏では明らかに違うのはわかるのですが、なにが、どう違うのか、やっぱりよくわからないんです。おすしのサビ抜きのように素人の演奏はグルーヴ抜きになってるんですかね?

■沼澤
うーーん‥‥‥‥。今までまぁまぁやってきたので、同じだったら逆に困るけど(笑)。まず、グルーヴという言葉を日本語に訳すとすると、たぶん「ノリ」になるのかな。で、ノリは音楽とは全然関係のない日常生活の中でもつかいますよね。「お前、ノリいいじゃん」とか、「ノリ悪いっすねー」とか、いうでしょ?

□ほぼ日
ノリがいい、悪いはつかいますね。

■沼澤
それは、たとえば飲みに行こうぜって誘ったときに、いつも断られていたりしたら、「ノリ悪いなぁ」ってつかう。

□ほぼ日
はい、「付き合い悪いなぁ」って意味で。「ノリ、いいね!」というときは、やっぱり意見があったときとか‥‥。

■沼澤
そうそう。受け答えのなかで、すごく粋なことをベストなタイミングで返してくる、そのスピード感がピッタリあったときに、「おっ、ノリいいねー!」ってわけですよ。要するに、ノリのいい、悪いってことは、その人たちの間に共通に感じられているものがあるかないか、ということなんです。

□ほぼ日
共通に、感じられているもの。

■沼澤
そう。なーんの共通点もないときには、ノリがいい、悪いとかじゃなくて、
「何がいいの、それ」って、もうそのこと自体が理解できないわけですよ。

□ほぼ日
あぁー、そうか。

■沼澤
なので、「この人はノリがいい人だ」とたくさんの人からいわれていたとしたら、おそらく、そのノリがいい人はその人たちと何かしらの共通点をもっているということなんだと思います。

□ほぼ日
なるほど。より多くの共通点をもっている人は、たくさんの人とノリが合うわけですもんね。

■沼澤
で、たとえば、100人中95人が「ノリがいい」というAさんと、100人中10人が「ノリがいい」というBさんがいるとするでしょ。明らかにAさんのほうがたくさんの人から「ノリがいい」といわれているけど、それは決して、Bさんの「ノリが悪い」、ということではないと思うんです。少なくとも10人とは感じているものが共通しているし、その感じているものというのがその10人にとっては間違いなくノリがいいものなわけですから。

□ほぼ日
なるほど。グルーヴの気持ちよさっていうのは、単に数だけでは計り知れない、と。

■沼澤
そうですね。ま、基本的には、このように、ふだんつかうノリと、グルーヴは同じようなものだと思います。ただ、特に音楽の世界では、グルーヴが、作品の出来不出来まで関わってくる。作品にものすごく影響する、大きなファクターだってことなんです。

□ほぼ日
あの人のドラムじゃ踊れないけど、この人のドラムでは自然に体が動いちゃうっていう、違いになるんですね。

■沼澤
そうですね。音楽やドラムの世界では、この人のドラムは技術が高くて、すごく正確に演奏してるし、とってもうまいんだけど、なんだかつまんないって感じることがある一方で、どうみても上手ではない演奏が何かの理由でものすごくカッコよく思えて、体が思わず動いちゃったり、楽しかったり、ということがふつうにある。

□ほぼ日
うんうん。そういうことは、考えてできることではないような気がするのですが、実際にはどうなんですか?

■沼澤
うーん、それは人によりけりだと思います。たとえば、ぼくがドラムをプレイするとき、仮に、スガシカオさんのレコーディングに参加することになったとしましょう。そのときに、ぼくは自分が持っている技術や表現力をどう活かせば、スガシカオさん自身と、彼の音楽が光り輝くか、ということを第一に考えます。自分のバンドでプレイするときでも、基本的には同じですね。バンドのメンバーの演奏を最高のものにするにはどうするのか、と考えてプレイしてます。

□ほぼ日
はー、そうなんだー。幅広くいろんなミュージシャンたちといっしょに演奏している沼澤さんだから、そういうところを人一倍大事にされているんですね。「オレのプレイを見てくれ!」ってわけじゃない。

■沼澤
そうかもしれませんね。まずは自分がいるけど、ぼくにとっての音楽はだれかといっしょに奏でるもので、一人でなんて、絶対にできないです。なので、演奏する人だけでなく、まわりの環境とか、もうすべてが関与してきますね。

□ほぼ日
環境、というと?

■沼澤
グルーヴやノリって、人の変化とともに、変わっていくんですよ。たとえば、住む環境の変化とか。いっしょに住んでいるときは兄貴と仲悪かったのに、結婚して家を出て行っていっしょに住まなくなったら、すごく気があうようになった、みたいなこと、ありますよね。

□ほぼ日
あります、あります。

■沼澤
それと同じで、今回開催される「ドラム・マガジン・フェルティバル2012」
でいうと、ステージにドラムをセットする人、マイクを立てる人、照明を操る人‥‥。極端にいえば、車で会場までいって、駐車場にいれるときに「こちらへどうぞ」って誘導してくれる人や、お昼のお弁当を持ってくる人まで、それに関わっている人が大量にいるわけですよ。で、その人たちが全部つながってくれてないと、うまくいかないですよね、やっぱり。なので、そういう関係性はどんな状況でも一番大事だと思ってますし、とても気になるところです。

□ほぼ日
そうか!ライヴというのはステージ上の演奏だけでなく、お客さんやスタッフが一体となってつくり出すグルーヴなんですね。なるほどー、グルーヴの入り口が見えてきたような気がします。

■沼澤
そうです。つまり、グルーヴとかノリがいい・悪いというのは、お互いに何か共通してる感覚があるかないかということで、ノリをよくしたいからといって、練習したり、人から習ったりして簡単に習得できるものでもない。ましてや、教則本などを読んで養えるものでは決してない。


http://youtu.be/G-u53_h_83A