SEiREN First Album「The first Rose bud」

SEiREN


Toa’s Voice

セイレーンというギリシア神話に登場する伝説の生物がいる。
航海者を美しい歌声で惹きつけて難破させるという海の魔物で、人魚としても描かれる。
心も体も惹きつけられる歌声とは、どんなものだろう。
魂を虜にするような歌声を聴いたならば、きっと吸い寄せられるに違いない。
そして深く暗い海の底に導かれるのだ。

Toaというシンガーが自分のバンドにSEiRENとネーミングしたのは、その歌声を聴いた人たちの勧めによってなのか、彼女自身が人魚というイメージに惹かれてのことなのかはわからない。
しかし、これ以上にふさわしい名前があるとも思えない。
Toaが目指しているのは、自分の歌声を聴く人の心にさざ波を立てることじゃないかな。
そのさざ波をどう育てていくかは人それぞれだろうけど、波の行方は暗い海の底ではなく、明るく柔らかな岸辺なんだろう。

SEiRENのデビューアルバムを聴いた。
その歌声が天賦の才なのは確かだが、音楽に対する愛と覚悟なしには花開くことはなかったんじゃないかと想像させる物語性も感じる。
そして、歌声をサポートする二人の楽士が素晴らしい。
限りない無私さと繊細さを確かなテクニックに結ってメロディを織り成すギタリスト。
大地と一体化したようなリズムと力強くも優しい音色を叩き出すパーカッショニスト。
アイルランドの伝統音楽に基づきながら、日本人としての感性も加味された解釈と演奏に、多くの聴き手が感動と安らぎを覚えるだろう。
彼らのオリジナルも2曲収められており、他の曲と共通した世界観を醸し出している。
ぜひ、ご一聴を!!

SEiREN
The first Rose bud

1. Siuill A Run
“Siuill A Run(シューリ・ルゥ)”はアイルランドの伝統曲で、兵役に行った恋人を慕い無事を願う女性の視点で歌われている。
歌詞はversesパートが英語で、chorusパートがアイルランド語で書かれている。
この曲は別名 Johnny Has Gone For A Soldier (ジョニーは戦争へ行った)という曲名でも知られ、Peter, Paul & Mary の 1963 年のヒット曲「Gone The Rainbow(虹と共に消えた恋)」の原曲としても有名だ。

2. Spancill Hill
“Spancill Hill”はMichael Considineによって書かれたアイリッシュフォークスタイルの曲である。
オリジナルは、ゴールドラッシュ時代にカリフォルニアに渡った移民たちの苦境への嘆きと望郷の思いを、男の視点で歌っている。
故郷のSpancill Hillに残してきた恋人や友人たちへの思い。

3. Black is the Colour
“Black is the Colour”は、アメリカのアパラチア山脈周辺に住む人たちの間で歌われ始めたトラディショナルフォークソングだが、元々はスコットランドを起源としている。
1916年にLizzie Robertsという女性シンガーによって、”Black Is The Colour”と題して録音され、以後、大勢のミュージシャンによってカヴァーされた。
黒は愛しい人の髪の色。

4. Mna na hEireann(Women of Ireland)
インストナンバー。
アイルランドの詩人Peadar O Doirninによる詞にSean O Riadaがメロディをつけた曲で、プロテストソングとして分類される。
英国による略奪。
アイルランドの女たちの受難。

5. Romance of the Rose
フランス語タイトルを「The Roman de la Rose」といい、中世フランス詩のスタイルを持った寓話的作品。
愛の美しさを人々に伝えるために書かれたと言われている。
タイトルにあるRoseは人名であり、また女性性のシンボルでもある。

6. She moved through the Fair
伝統的アイリッシュフォークソングで、さまざまなヴァージョンが存在し、多くのミュージシャンによってレコーディングされている。
祭りの人混みを歩き回る彼女を見かけたら、勇気を出して思いを告げ合うがいい。
失ってからでは遅いのだから。

7. 旅人
オリジナル曲。
万感を秘めたシンプルな歌詞が、旅情と希望を喚起させるメロディと歌声が、心にしみ入る。
唯一日本語で歌われている曲だが、アルバムの世界観に揺らぎはない。

8. Down By The Salley Gardens
20世紀初頭、William Butler Yeatsによる詩に曲が付けられた。
その後、オリジナルメロディに何度も新たな歌詞が付けられ、多くのシンガーやバンドのレパートリーとなっている。

9. Change of Colour
オリジナル曲。
Toaの書いた日本語詞が、友人たちの手で英訳されている。
ロマンがあり、強く生きていく意志をも内包している。
そんな印象を受ける美しい曲だ。

10. Si do Mhaimeo I
低音打楽器と弦楽器の魔術的な継続音に乗って、どこかユーモラスにも聞こえる歌がうたわれる。
わたしゃ、あんたのおばあちゃんさ。亭主にゃ先立たれたが、お金に困っちゃいないよ。

11. My Lagan Love
この曲は、アイルランド北西部の州ドネゴールが出所だと言われている。
そしてJoseph Campbellによって英詞が付けられた。
Laganは、北アイルランドの首都ベルファストを流れる川の名前だ。
後にKate Bushの兄であるJohn Carder Bushがオリジナルな歌詞を付け、Kateが録音。
1985年にリリースされた。
Toaは、シンセの白玉音符をバックに、アイルランドの水の流れのごとく、静かな情熱を込めて歌っている。