初めて会ったときのこと覚えてる?
きみは唐突にそう言った
散歩のさなか
緑の草むらに紅い落ち葉を見つけたときだった
記憶の水の底から きみの顔が浮上してくる
それが出会いのときなのか
恋に落ちた瞬間なのか
初めて愛を交した夜なのか
あまりにも朧げだ

船が岸壁を離れたとき
きみは手を振ったりせずに 真っ直ぐこちらを見つめていた
ぼくの右腕には女物の腕時計が巻かれている
共に旅する気分でいてねと きみの腕からやってきた
船は北上し ナホトカへと向かう
故郷に近づくために故郷から遠ざかるんだ
旅すがら 何度きみを恋しく想ったのか
それとも未知への興味が勝っていたのか
旅を終えて 腕時計は持ち主へと帰り
借り手と貸し手は道に迷う

待ち合わせの喫茶店に きみは先に来ていた
ロングスカートにスニーカーという出で立ち
そう ちゃんと覚えているのさ
初めて会ったときのこと
まなざしは強く 表情は儚げ
カトマンドゥの仏塔に描かれた女神のよう
記憶が幻でないと誰が言い切れるだろう
二十世紀末の場末の映画館
映写機がカタカタと 万華鏡はクルクルと

(2018.5)