二千文字で綴る官能

biyaku_480


ノルウェーの森

 四人の中では誰が好き? と栞が訊いてきた。ジョンに決まってると言うと、あたしはやっぱポールがいいわと、うっとりした表情になる。
「だって、かわいいもん」
「リンゴだって、ある意味かわいいぞ」
「まあね。ところで新しいアルバム買わないの?」
 放課後、ぼくらは小川に沿った道を歩いていた。六年生になってから急に背が伸びた栞は、ついでに胸のふくらみも目立ってきた。
「おいらの小遣いじゃ一生買えんかも」と大げさに溜め息をついてみせる。
「栞、おまえ買って貸してくれ。おまえんち金持ちじゃん」
「あたしの小遣いだって。ねえ、二人で買わない?」
 栞の大きくてよく動く目が見つめてくる。
「いいけど」
 おいらは何だかどぎまぎして、舌がもつれてしまった。
「じゃあ、決まり。アルバム名は、ゴム底の運動靴って意味よね」
「違う。ゴム製の魂のことさ。ミック・ジャガーが、あるブルースマンに、おまえらの音楽はプラスチック・ソウルだとからかわれた話を聞いたポールが、ラバー・ソウルって付けたんだ」
「さすが、よく知ってるね」
「まあな」
 兄貴の買うミュージックライフを熟読してるしな、と心の中で言う。教科書もそうすればと思わんでもないけど、それはまた別の話。
「あ、あの人」
 突然、栞が立ち止まって言った。指差す方を見ると、ポロシャツを着た若い男がセーラー服の女を後ろに乗せて、ペダルを漕いでいた。すごくきれいな人だった。
「誰?」
「近所のお姉さん」
「高校生か」
「うん」
「男の人は?」
「さあ」
「どこに行くんだろ」
 なぜか彼らの行き先を知りたいと思った。
「おい栞、つけてみよう」
 おいらは返事を待たずに、栞の手をつかんで駆け出した。自転車は海岸へ続く道路を進んでいる。ぼくらは見失わない程度の距離を空けて付いていった。やがて、自転車は左折して視界から消えた。
「いなくなったよ」と栞が言う。
「あっちには防風林があったな。きっとそこに行くつもりだ」
 おいらは、かつて行ったことのある松林を思い浮かべた。密に生えた松の連なりが秘密めいた空間をつくっていて、海端にあるのに山深い森を連想させた。なぜ彼らがそこに向かってると思ったんだろう。
「ねえ、引き返そうよ」
 左折して防風林に入り、しばらく行った辺りで栞が言った。日光が木々に遮られ、薄暗くなっていた。
「恐いのか?」
「なんだか気味が悪い」
「心配するな、おいらがついてる」
「でも」
「おい、今なにか聞こえんかったか?」
 行く手にちょっと高くなっている場所があり、その向こう側から、鳴き声とも唸り声とも聞こえる音がしたような気がした。
「帰ろうよ」と栞がおいらの腕を引っ張る。
「わかった。でもその前に、あそこをちょっとだけ見よう」
 おいらは栞と手をつないで、ゆっくりと前進した。近づくにつれて、その音は人の声で、しかも女の泣き声のように聞こえた。
「さっきの人が泣かされてるんかな?」
 おいらは小さな声で言った。
「おんなじ声を夜中にお母さんが出してた」
 栞は、なぜか怒ったように言った。
 斜面の頂上にたどり着いたので、腹這いになって向こう側を覗き込んだ。十メートルほど下の窪地に松葉が吹き溜まっていて、そこにさっきの男の人が仰向けになっていた。そして、その人の腹に女の人がまたがって、落下傘のように広がったスカートが上下に動いている。泣き声はずっと続いていて、ときどき、いい、いいと言っているようだった。女の人の泣き声を聞いていると、口の中が渇いてきて、勃起してきた。
「なんか落ちてる」と栞が言った。
 つないだままの手の平は、じっとりと汗ばんでいる。女の人のそばに丸まった白いものが見えた。なんだろと言うと、栞は黙ったままだった。横顔を見せた女の人のセーラー服ははだけてて、男の人が胸のあたりを撫でていた。これが男と女のやることかと思った。なんとなく知ってはいたけど、実際に見るのは初めてだった。
 そうかぁ、あんなふうに男の上に女が乗ってやるんか。そう思ったとき、おいらの頭の中に閃くものがあった。ジョンの歌う『ノルウェーの森』という曲名を思い出したのだ。上に乗る、乗る上、ノルウェーという連想だった。栞に言おうかと思ったけど、馬鹿にされそうなので、やめておいた。
「動いた」
 おいらは、男の人が上体を起こして女の人を抱きしめ、女の人は地面に両膝をついて腰を前後に動かし始めたのを見て、小さく叫んだ。女の人は、ますます大きな声で泣いた。
 おいらは隣に横たわる栞を見た。彼女がこちらに顔を向けたので、顔を近づけた。目を閉じた栞の顔は大人びて見えた。とたんにビートが聞こえてきた。おいらの心臓の音だった。思い切ってキスした。唇は合わさったけど、それからどうしたらいいかわからなかった。もうすぐいくよ、もうすぐいくよ、という女の人の声が聞こえ、男の人と一緒に大きな叫び声を上げた。
 ぼくらの時間は止まったままで、身動き一つできなかった。栞の体から、いい匂いがした。


車の中で

 街角の暗がりで突然抱きしめられ、キスをされた。駅近くの雑居ビルにある居酒屋で飲んだ帰りだった。彼が舌をからませてきたとき、あたしの中のたがが外れてしまった。情欲に火がついたというより、積もり積もったさみしさが何か危ういものに変異してしまったようだった。あたしは彼の背中に手を回して、酒の匂いのする舌を吸った。短めのあたしの舌は、ぬめっとしたものにかき回され、二つの舌は蛇の交尾のように口の中でのたくった。
「部屋に行こう」
 ようやく唇を話したとき、うわずった声で彼は言った。
 彼は隣の市から通勤していて、運転代行で帰宅するには遠すぎるので、駅前のホテルを取っていた。
 あたしが、それはできないよと言うと、じゃあ車の中で話そうと誘った。彼はあたしの肩を抱いて、駅の方に歩き始めた。
「車どこなの?」とあたしは訊いた。
「駅の駐車場だよ」
 駅前再開発の一環で、屋外駐車場が新設されていた。
 駐車場に着くと、彼は奥の方に向かった。職場でいつもあたしの隣にとめてある白い車が、夜の闇にひっそりと浮かんでいた。
 彼は同じ職場の上司で、あたしより十歳ほど若く、妻子持ちだった。あたしがこの職に就くと程無く、彼は食事や飲みに誘ってきた。仕事の面で尊敬すべき点があったし、人間的にも好ましいと思い、なによりあの人との距離が埋まらないさみしさから、あたしはデートを重ねるようになった。
 出会ってからずっと、あたしはあの人が好きだった。でも、あの人はいつも上の空だった。結ばれてからしばらくは幸せだったけれど、彼氏をつくれよ、などと不可解なことを言うあの人に、あたしは翻弄され続けた。その後、何度かセックスしても、あの人はなかなかあたしをステディな相手だと見なしてはくれなかった。それでも、あたしはあの人を求め続けた。
 彼はポケットからキーを取り出すと、ロックを解いた。あたしは助手席に回って、ドアを開けた。乗り込むと、すぐに引き寄せられた。キスをしながら、彼は助手席のシートを倒した。
「人が来ない?」
「大丈夫」
 彼はあたしを押し倒すと、上に乗っかってきた。彼の手がTシャツの上から胸を愛撫し、やがてTシャツを上にずらして背中へと回った。彼は器用にブラジャーのホックを外した。舌が唇から乳首に移り、舌先で愛撫され始めると、潤いが増してくるのがわかった。
 彼はあたしのスカートをまくってパンティに手をかけ、足首まで引き下ろした。そして、太股が割られた。目を開けると、男が見下ろしており、車外から射し入るぼんやりとした明かりに、あたしの左脚が白く浮かび上がっていた。
 彼はあたしをまさぐりながら、こんなに濡れてると耳元で囁いた。彼の指が入ってきたとき、あたしは抑えていた声を解き放った。しばらくすると、指が内部を掻き回す感触を感じた。次々と押し寄せる快感に浸りながらも、あたしは自分の中に生じた強い感情に気づいていたが、それが何なのかわからなくて、もどかしさを覚えた。
 ふっと体が軽くなり、彼があたしから体を離したのがわかった。すぐにベルトを緩める音がして、ふたたび覆い被さってきた。
 このとき突然、最後まで行くのは嫌だと思った。あたしの内臓に、あの人以外のものを受け入れたくはなかった。
「いや」
 あたしはそう言って抵抗した。彼は諦めずに両手であたしの体を押さえつけ、硬くなったものを入れようとした。やめて、と抗議したものの、ここまで進んだ事態を止めるのは容易ではなかった。しばらく抗っていたが、結局許してしまった。
 あたしの中に入ったとき、彼は感極まったような溜め息をついた。その声を聞きながら、あたしが感じてたのは悲しみなんだと、ようやくわかった。彼が動くたびに体は反応したけれど、もっと深いところにあるものが涙を流していた。
 そのときになって、あたしは、見えないふりをしていたあの人の顔を、まざまざと思い出した。それが笑顔であっただけに、悲しみは深まった。あたしは何をしているんだろう?
 彼は十分に動いたあと、一旦離れてコンドームを付けた。そしてふたたび挿入すると、動くテンポを速めてきた。間もなく、行っていい? という声がして、ううっという呻き声と共に彼は果てた。彼はしばらくあたしの上にいて、やっと一つになれたと感慨深げに言った。
 彼が体を離したあと、あたしはノロノロと起き上がり、床に落ちていたパンティを拾って履いた。ブラも付けた。あの人に抱かれたあとのような喜びはなく、苦い液体が食道を駆け上がってくるような気がした。
 彼は身繕いしたあと、キスを求めてきた。軽く応じながら、彼にとってはこれが始まりなんだと思った。けれど、あたしにとっては最初で最後のことにしようと決めた。帰るからとあたしは言い、彼はタクシー乗り場まで送ってくれた。
 帰りのタクシーの中、酒の酔いが醒めるにつれて、あの人以外の男に抱かれたという事実が、鋭利な刃物となって胸を刺し、あたしは泣いた。


けらくレッスン

「まずは、じっくり温まってくれ」と男は言った。
 わたしより二十以上年上だが、老人と呼ぶには無理がある。出版記念のパーティで初めて顔を合わせたとき、何だか人間離れした人だと思った。いろいろ話すうちにセックスの話になり、あなたは女の本当の喜びを知らないと思う、私ならそれを与えられるよ、と誘ってきた。
「オーガズムなら知ってるわ」
「いや、あなたの経験した程度のものは、登山に例えるとまだ一合目だよ」
 なんでこんなオヤジに、このわたしがそんなこと言われなきゃならないの?
 その場を去ろうとしたら、引き留められた。物を書く上でも、きっと参考になるからと、わたしの好奇心を刺激してくる。しつこく粘られた末に、わたしはケータイ番号を教えてしまった。
 それから数度に渡るやりとりを経て、ついにわたしは男の待つホテルへとやってきた。もちろん覚悟を決めた上でのことだった。
 わたしはバスタブに体を横たえて目を閉じた。お湯の心地よさと、これから起こるであろうことへ期待感とが溶け合って、全身の細胞がゆらめいていた。
 タオル地のガウンをまとってベッドの端に座ると、男はガウンを脱がせたあと、わたしを横たえた。室内の照明は薄暗く、着衣のままの男の口からはコニャックの匂いがした。
「少し飲みたいわ」
 そう言うと、栓が抜かれ、液体が注がれる音がした。上半身を起こしてグラスを受け取り、枕を背にあててヘッドボードに寄り掛かる。香りを味わい、琥珀色の酒を口に含んだ。
 グラスを傾けるうちに、男はわたしの足先から太股に向けて、ゆっくりと唇を這わせてきた。脚が大きく開かれたが、その付け根へのキスはなく、また足先へと戻っていった。男は足の指を口に含むと、小指から順に舐め始めた。最初はくすぐったかったが、しだいに奇妙な快感へと変わっていった。彼の口に親指が出入りしているのを見たとき、男を犯しているような気がした。
 コニャックを飲み終えたわたしは、グラスをサイドテーブルに置いて仰向けになり、目を閉じた。男が服を脱ぐ音がして、わたしの右横のマットが沈んだ。それから彼は、わたしの肌を愛撫し始めた。その羽毛のようなタッチは、これまで経験したことのないものだった。
 やがて乳首が暖かいものに包まれた。あまり強く吸われると刺激があり過ぎて不快なのだが、男の絶妙な舌先の使い方に、わたしは声を上げた。
 男は、わたしの耳たぶを甘噛みしたあと、唇を重ねてきた。舌がからみあう。そうしながら、男の手は下半身に向かい、陰毛を梳(す)きながら泉の周辺へたどり着く。彼は溢れ出る水を汲み上げながら、辺りをびしょびしょにした。けれど、なぜかクリトリスには触れなかった。
「この感じをよく覚えておきなさい」
 わたしの中に入ってきたとき、男は言った。
「あとでまた入れたとき、その違いがわかるから」
 男は早々にわたしから離れると、ふたたび指と舌を使った愛撫を始めた。
「いかなくていいの?」と、わたしは訊いてみる。
「まだ早い。それに、射精が目的ではないからね」
 なら、何が目的なのだろう。
 しばらくのち、膣内では男の指が踊っていた。弱く、ときに強く、緩急自在なその動きに、わたしは高みに向かっていった。そのときになって初めて、男はクリトリスに指を当てた。いや、もしかしたら舌先なのかもしれない。わたしは、たちまち達してしまい、自分でも驚くほどの声を出した。けれど、そこはまだ頂上へと至る尾根の途中で、さらなる高みへと運ばれていった。
 膣に特別な感触があり目を開けると、男が上に乗っていた。挿入されたペニスは動かされることなく、彼はわたしをじっと抱いていた。にもかかわらず、膣を中心として、快感の波紋は幾重にも広がってきた。これまでのセックスでは覚えがない感覚だった。まるで膣に新たな快感センサーが生じたような感じ。ペニスの動きがないまま、わたしは絶頂を迎えた。そして男が動き始めてからの記憶はない。
 その日から一年近くの間、わたしは男によってセクシャルな部分を開発された。一回のセックスは6時間に及んだ。ホテルに入る前に食事をしていると、男の手が目に入っただけで、さーっと欲情した。それはある種の条件反射だったかもしれないが、純粋に体だけで味わう快楽の目くるめく喜びがあった。男のサポートによる官能の追求で、わたしは自分というものの深いところまで下りていけたと思う。
 それから、男との逢瀬を重ねるにつれて、わたしはしだいに苦痛を覚えるようになった。男を愛せなかったというのがその理由で、体の快楽と相反するように心は空しかった。男のことは、身を任せられるほどには好きだったが、もしかしたら、愛していなかったからこそ、自分をさらけ出して吠え、絶叫し、尻の穴まで覗かせることができたのかもしれない。
 男がわたしの心まで欲しがり始めたとき、わたしは彼と別れようとし、彼はそれを望まなかった。レッスン料は、随分と高くついた。


トランジットの夜

 機体整備のためにマニラで一泊することになった。トランジットビザが発給され、おれたち乗客はバスで航空会社が用意したホテルに移動した。二人部屋があてがわれ、おれは日本人の若者と同室になった。彼もおれと同様にバックパックを背負った貧乏旅行者だった。
 部屋に落ち着いたおれは、一寝入りするという彼を残してホテルのプールに行った。水着が無かったので、黒いブリーフで代用した。照明でキラキラゆれる水面に仰向けになると、上空に星が見えた。
 しばらく泳いでいると、ビキニを着けた白人の女性が姿を見せた。たぶん乗客の一人だろうと思った。すらりとした肢体で、栗色の髪を後ろに束ねていた。水に入ったあと、近くに来たので挨拶を交わした。
「いい気持ち」
 予期せぬ日本語に、日本語上手ですね、とありきたりなことを言った。
「主人が日本人だから」
 鳶色の瞳の彼女は、おれとあまり違わない年齢のように思われた。
「ご主人は?」
「日本にいます。私だけ里帰りしてきました」
「羽を伸ばしてきたのかな?」
 ハネオノバス? と彼女は首を傾げた。
「のびのびしてきたかって意味だよ」
 おれは笑って言った。
「あー。まあまあ」と彼女も微笑む。
 それから二人でしばらくの間泳ぎ、南国特有の熱い風が吹くプールサイドで、冷たいモヒートを飲みながら話した。
 一年近く続いた旅も終わりに近づき、けだるさと寂しさが入り交じったような気分だったが、思いがけない出会いに少しだけテンションが高まった。
「部屋に来ない?」
 突然、彼女が言った。瞳を覗き込むと、中にゆらめくものがあった。
「散歩しようか」
 おれは立ち上がって手を差し出した。
「だって、誰かと同室だろ?」
 彼女は苦笑いして、おれの手を取った。
 おれたちは、ほぼ渇いた水着の上から服を着て、手をつないだまま庭園の方へ歩いていった。照明が植え込みに遮られている場所に来たとき、おれたちは立ち止まって抱き合った。久々に触れる女性の柔らかさだった。唇を合わせると、ぬめった暖かなものが、おれの口に入ってきた。
 しばらく舌を吸い合っていると、前方に何かの気配を感じた。顔を上げると、植え込みの端から男が覗いていた。じっと見ていると、気づかれたと思ったのか、いなくなった。
「ここはまずいよ」
 おれは彼女の肩を抱いて歩き出した。愛し合うのに適当な場所を探してみたが、けっこう人に出くわしたりして叶わなかった。それで結局、彼女の部屋に行くことにした。幸い同室の女性は外出しており、おれたちはすぐに服を脱ぎ捨ててベッドに横になった。
 キスしながら互いの体を愛撫するうちに、肌はじっとりと汗ばんできた。彼女の下腹部に手を伸ばすと、しとどに潤っている。しばらく指を遊ばせてから、内部に差し入れた。彼女は小さな悲鳴を上げる。二本の指を曲げたり伸ばしたりしながら、時間をかけて乳首を舐めた。
 彼女の口から異国の言葉が漏れる。英語ではない。言葉の意味はわからないが、言いたいことはわかる。おれは指を抜いて、代わりのものをあてがい、挿入した。彼女は大きく呻いて、おれの背中に回した腕に力を込め、腰をグラインドさせる。おれは危うくいきそうになり、彼女の腰を押さえつけた。
「ゆっくり楽しもう」と耳元でささやく。
「久しぶりなの」
 彼女は切なげな声を出した。
 里帰りが長かったのだろうか、それとも夫婦仲が冷えているのか、そんなことを思いながら、おれもそうだと言った。
 熱くうごめく内部の感触に慣れてきたので、少しずつ動かし始めた。今度は大丈夫そうだった。同室の人が戻って来やしないかと頭の片隅で考えつつも、そのことが刺激にもなって、おれは彼女の長い脚を肩に乗せたり、豊かな尻を後ろからつかんだりした。
 絶え間なく声を上げる彼女にコンドームが無いと告げると、そのままでいいと言った。やがて彼女はオーガズムを迎え、おれも彼女の中で果てた。
 しばらくそのままの格好でいて、汗が不快になったので体を離し、並んで天井を眺めた。大きな扇風機がゆるく回っている。
「なぜ、おれと?」
 ふと、そう思って訊いてみた。
「好きになったの」
 おれは首を回して彼女の頬にキスをした。
「でも、今夜だけ」
「そうなのか」
「夫が待ってるもの」
 しょせん火遊びの相手に過ぎなかったのかとがっかりしたが、それはおれとて同じだった。ただ、その場限りであろうとなかろうと、セックスによって癒し合えることもあると解るくらいの生き方はしてきたつもりだ。
「おれも好きだよ」
 そう言って体を起こし、唇を合わせた。
 おれは部屋に戻ると、シャワーを使ったあと、数時間眠った。
 成田に着くまで彼女を見かけなかったが、税関で一緒になった。インド帰りのおれは厳重に調べられ、やっと通関すると、彼女が待っていた。
「お元気でね」
「あんたも」
「ここからは別々に行きましょ」
 彼女は、にこっとすると先に歩き出した。その場に立ったまま見送ると、やがて雑踏にまぎれて見えなくなった。