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月別: 10月 2014 (1ページ / 3ページ)

花束をもらう

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今日は朝から隣の市にある医療センターに出かけた。
そこには、この地域唯一のストーマ外来があるからだった。
なかなか自分に合う装具が見つからずに試行錯誤していたのだが、その過程でストーマ周辺の肌に糜爛が生じたので、診察を受けたわけだ。
ストーマについて専門知識を持つ看護師さんに診てもらって、いろいろアドバイスをいただき、今後の方向性も見えてきた。
その場で装具の交換をするのだが、食事をしてから時間を置いた方がスムーズにできるので、朝飯抜きでやってきた。
結局交換できたのは昼を回っていたから、腹の虫が賑やかだったよ。

受診のあと、バンド仲間が経営している店に顔を出した。
病院での待ち時間にメールしてあった。
店内に入ると、店主のJとパートナーのKちゃんが歓迎してくれた。
Jは退院祝いにと言って、薔薇の花束を差し出した。
「見舞いにも行けんかったけぇ」
男から花束を手渡されたのは初めてかもしれん。
花をもらうのは相手の性別にかかわらず嬉しいもんだなと思った。
右手にある椅子の上に花束を置いて、ラーメンと半チャーハンのセットをたのんだ。
久々のラーメン。
食後はブラックコーヒーと焼きたてのマドレーヌ。
Kちゃんが焼くマドレーヌは旨い。
一度に5個しか焼けないし、日に一度しか焼かないので、貴重なブツである。
持ち帰り用に包んでもらった2個のマドレーヌが、しばらくのちにタイヤによって真っ平らに伸ばされるとは、そこにいた全員が、ましてや当のマドレーヌは、知る由も無かった。

眠るように死ぬこと

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去る9月29日に直腸癌の根治手術を受けた。
その際に全身麻酔が行われた。
麻酔薬は点滴で体内に入れられる。
腕には点滴用の針が付いていたから、それまで投入されていた生理食塩水を麻酔薬に変えるだけでよかった。
酸素マスクが付けられ、ゆっくり深呼吸をしてくださいと言われた。

耳元で自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきたかと思うと、ぼんやりと目覚めて、数人の顔が視界に入ってきた。
手術は無事終わりましたよ誰かが言っている。
ゆっくり深呼吸を始めてから数秒のちに目覚めたという感覚だった。
実際には7時間が経過していた。

その時のことを後で思い返すたびに、死ぬということは、再びの目覚めが無い眠りのようなものだと実感した。
もし安楽死を実行できるとしたら、目覚めることの無い眠りに入って行く覚悟ができるかどうかが課題だろう。
それを恐怖と感じるか平安と感じるかは、そのときにならなければ正直わからない。
まあ恐怖と感じるのなら、そもそも実行しないか。

父の臨終のことを思い出す。
毎日のように母と一緒に病室に顔を出していたが、ある日に意識が無くなった。
そして数日後に、おれの目の前で最期の息をし終えたのだった。
そのとき病室には母もいた。
意識は無かったが、父には家族に見守られてこの世を離れたという自覚があったように思う。
本当のところは、わからないにしても。

老衰や病気で旅立つにせよ、安楽死で旅立つにせよ、家族や友人たちに囲まれながらなら、安らかに逝けるような気がする。
それとも、生まれてきたときのように、独りで逝きたいと思うだろうか。

下の動画は作家のMichèle Causseさんが、安楽死幇助団体のサポートを得て、永眠に向かう様子を記録したものである。
スイスでは安楽死が合法なので、おそらくこれはスイスでの事例だろう。
安楽死については賛否両論があると思う。
おれは、そういう選択があってもいいと考える。
あなたの意見はどうだろうか?




安楽死法 ‐ 死を選ぶ権利 — 駒沢丈治(雑誌記者)

アメリカの29歳女性の安楽死 — 長尾和宏(長尾クリニック院長)

ブリタニーさんの報道から日本を想う — 長尾和宏(長尾クリニック院長)

安楽死 Wiki

サマンサを探せ!

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まずは、この映画の予告編を観てほしい。
もう日本でも公開されていると思うが、おれは観ていない。





結局、自分に忠実で自我を主張しないから、相手がコンピュータだとわかっていても感情移入して惚れてしまうということだろう。
ある映画評論家は、相手の人格(この場合は女性)を受け入れていないエゴイスティックな関係性だという意味のことを述べていたな。
しかしそうであっても、孤独を味わっている人間にとっては魔力があるシチュエーションじゃないか?
人工知能が高度に発達して学習機能が凄いことになれば、関係が深まれば深まるほど依存度も高まっていくに違いない。
アンドロイドとして実際に見たり触れたりできないとしても、声だけでも十分に満たされるかもしれない。
人は自分のことを解ってくれる(解ってくれていると思える)存在に惹かれるし、依存してしまうことが多々ある。
近い将来、このサマンサのような商品が売り出されたとしたら、ただの玩具だと笑い飛ばせる人だけじゃないな、きっと。
きちんと他者に向き合って関係性を構築するということについて、再考するきっかけをくれる映画だと思う。
そのうち、観てみよう。

ブロンド・オン・ブロンド

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まだ道半ばではあるが、今回の手術の成功を記念して何かCDを買おうと思い、いろいろ物色していた。
で、ようやく決めたのがこのアルバムだ。
『ブロンド・オン・ブロンド』 紙ジャケ仕様
Sony Musicが、ディラン究極の「神」ジャケ復刻プロジェクト!完全生産限定盤、というのをやっていたんで、その中から選んだ。
『The Complete Album Collection』で使用された最新マスター音源が使われている。

1966年5月にリリースされたディラン7枚目のアルバムである。
彼は当時25歳。
おれが15歳のときだから、それから48年後にやっと買ったわけだな。
もちろん曲目については、ベストやライヴアルバムで持っているのもあるし、よく知っている。
ただ、アルバムを通して聴いて初めて解ることがあるのは確かだ。
ロビー・ロバートソン、アル・クーパーなどのミュージシャンが参加。
LPでロック史上初の二枚組としてで発売された。

歌声、メロディ、歌詞、演奏、曲のバラエティなど、とても良い。
おすすめ!!


『 Blonde on Blonde 』

<DISC1>
1.Rainy Day Women #12 & 35(雨の日の女)
2.Pledging My Time(プレッジング・マイ・タイム)
3.Visions Of Johanna(ジョアンナのヴィジョン)
4.One Of Us Must Know (Sooner Or Later)(スーナー・オア・レイター)
5.I Want You(アイ・ウォント・ユー)
6.Stuck Inside Of Mobile With The Memphis Blues Again(メンフィス・ブルース・アゲイン)
7.Leopard-Skin Pill-Box Hat(ヒョウ皮のふちなし帽)
8.Just Like A Woman(女の如)

<DISC2>
9.Most Likely You Go Your Way And I’ll Go Mine(我が道を行く)
10.Temporary Like Achilles(時にはアキレスのように)
11.Absolutely Sweet Marie(アブソリュートリー・スイート・マリー)
12.Fourth Time Around(フォース・タイム・アラウンド)
13.Obviously Five Believers(5人の信者達)
14.Sad-Eyed Lady Of The Lowlands(ローランドの悲しい目の乙女)


Bob Dylan/ Mark Ronson Remix “Most Likely You Go Your Way And I’ll Go Mine”

からだにメスが入るということ

member

Laparoscope_ope


過日受けた手術は全身麻酔だったので、苦痛は感じなかった。
意識が無かったので当然だ。
手術が終わり麻酔が切れてくると患部は痛んでくるが、現在進行形で肉や内臓を切られているわけではないから、何とか耐えられる。
そして、時間の経過とともに苦痛が薄らいでくる。
まさに麻酔様さまである。
しかし手術後の顔やからだの憔悴をみるに、肉体の細胞たちは痛みを感じて七転八倒していたんだなとわかる。
意識が無かったからといって、何も感じてなかったわけではないのだ。

今回の手術は、かなりの困難を伴うものだった。
患部は直腸の肛門から近い位置にあった。
うつ伏せ状態で肛門から手術をすればよさそうなものだが、そういうわけにはいかないらしい。
よって、仰向けのまま腹部からアプローチする。
従来ならは開腹して行うやり方が主流だったが、最近では腹腔鏡下手術といって、腹に5ミリから1センチの小さな穴を5ヶ所開け、そこから内視鏡や手術器具を入れて、モニターを視ながら遠隔で手術していく方法に変わってきた。
さらに腹腔内に炭酸ガスを注入して膨らませておくことで、作業がしやすくなるとか。
腹腔鏡下大腸がん手術が開腹大腸がん手術に比べて優れている点は、切開面積が小さいので術後の回復が早いこと、患部を拡大できたり目視が難しい部位にも目が届くことなどがある。
ただその分、高度な技術と経験が必須ということになる。
特に直腸は体の裏側に位置し、かつ狭い骨盤内に収まっているので、小腸や大腸より難易度が高い。
そして肛門括約筋を温存して永久人工肛門を避けるために、特殊な技術が要る。
おれの受けた手術は「腹腔鏡下超低位前方切除術及び回腸一時的人工肛門造設術」と名付けられている。
手術は5時間を要すものだったが、(術前化学放射線療法により2割程度に縮小していた)腫瘍は切除され、腫瘍マーカー値の正常化がなされた。
残念ながらリンパ節への転移があったため、ステージ3aと診断され、術後の補助化学療法を行うこととなった。

さて、退院して今日で二日目だが、憔悴度はあまり変わらない。
焦らずに養生せねばと今は思っているけど、体調がちょっと増しになったら調子に乗って動きそうなのが心配だよ。
からだにメスが入ったんだからなと言い聞かせなければ。

いい天気やで、しかし。(© Haruyoshi Okuda)

世界を売った男

nirvana-unplugged


最近、妙に気になるのが、デヴィッド・ボウイの「The Man Who Sold The World」をニルヴァーナのカート・コベインがカヴァーしたやつなんだ。
日本を売っている輩は大勢みかけるけど、世界を売るとはスケールのでかい話だ。
いったい誰に幾らで売ったんだろう。


Electric 1993




Acoustic 1994

退院

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photo by Jose


あさって、約一ヶ月お世話になった大阪医科大学付属病院を退院する。
これでここを訪れることもないだろうと言えないのが残念だが、天使たちにまた会えるからいいかと思ったり。
来年6月頃に再手術があるからね。
術前治療も含めるとトータル二ヶ月くらい滞在しているが、住めば都である。

発病前に比べると10キロ近く体重が減っているので、これから少しずつ回復させねばならない。
もともとスリムなので、体重減少はけっこうこたえる。
帰宅しても、しばらくは養生が必要だろう。

11月23日には広島の音楽仲間のバースデイライヴに参加することになっている。
久しぶりに歌うんだが、はたして声が出るかな。
このライヴの詳細は、後日あらためて紹介したい。

術後の経過はおおむね順調ではあるが、排尿に問題があることと、ストーマになったことが、今後の克服課題だ。
手術の傷の皮膚面はくっついているが、内部がまだ痛む。
これは日薬が効くのを待つしかないのだろう。

前回の入院時に親しくなった病友とは今も交流させてもらっている。

Fさんはおれと同様の症状だったが、術前治療のあと、熟考した上で手術を受けない選択をなさった。
年齢的なことや腫瘍の進行具合を考慮して、そのように決められたようだ。
その決断は、おれにも理解できる。
またお会いできれば幸いだ。

Nさんは今も定期的に来院されているので、そのときに顔を合わせている。
ピュアな心と素晴らしいセンスをお持ちで、先達ではあるが遠慮無くお付き合いさせてもらっとります。
彼の撮るなにげない日常風景が好きで、頻繁に更新される写真ブログが楽しみである。
その一部を紹介しよう。


フォトあれこれ4 by Jose –日録–

2014.10.17 http://jose32.exblog.jp/20289840/

2014.10.14 http://jose32.exblog.jp/20269070/

2014.10.13 http://jose32.exblog.jp/20265447/

2014.10.11 http://jose32.exblog.jp/20265398/

2014.10.10 http://jose32.exblog.jp/20259567/

2014.10.09 http://jose32.exblog.jp/20259541/

2014.10.08 http://jose32.exblog.jp/20259511/

2014.10.07 http://jose32.exblog.jp/20247097/

2014.10.06 http://jose32.exblog.jp/20247083/

2014.10.03 http://jose32.exblog.jp/20222983/

Tomorrow Never Knows = 528Hz

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友人の「へるぴー」が、「In Deep」というサイトに載っている興味深い話を教えてくれた。
ジョン・レノンがビートルズ時代に作曲した「Tomorrow Never Knows」という曲の周波数と、5000年前の古代人が治療やヒーリングに使っていたかもしれない周波数が同じであるということ。
その周波数は528Hz。
この曲はベースが、このチューニングにおける1つの音(C)を弾き続けているので、528Hzの音がずっと流れるわけである。
この事実に気づいた「In Deep」さんが、528 Hzの音と「Tomorrow Never Knows」のイントロをつなげたものを作っておられるので、聴いてみてほしい。




ビートルズのは、こちら。




さらに「In Deep」さんによると、「ソルフェジオ周波数」と呼ばれる音階が聖ヨハネの賛美歌などに代表されるグレゴリオ聖歌に使われており、その音は特定の周波数を発して物質と意識に働きかける効果があるとか。
DNAの研究者であるレオナルド・ホロヴィッツ博士の著書にも詳細が書かれているとのこと。

396 Hz~トラウマ・恐怖からの解放
417 Hz~変容の促進
528 Hz~DNA の修復
741 Hz~表現力の向上
852 Hz~直感力の覚醒
963 Hz~高次元、宇宙意識とつながる

とか、とのこと、という語尾なので、真偽のほどはわからないが、「Tomorrow Never Knows」を聴きながら自分のDNA が修復されるイメージを楽しむのも一興だろう。


【 ビートルズ英語塾より 】

Tomorrow Never Knows

Turn off your mind, relax and float down stream
It is not dying, it is not dying
こころのスイッチを切って リラックスして 流れに任せなさい
死んでいくのではない 死んでいくのではない

Lay down al thoughts, surrender to the void
It is shining, it is shining.
すべての思考をなげうち 空虚に身を任せなさい
輝いている 輝いている

Yet you may see the meaning of within
It is being, it is being
内側の意味がわかるようになる
それは存在する それは存在する

Love is all and love is everyone
It is knowing, it is knowing
愛はすべて 愛は誰にでも
それは知ること それは知ること

And ignorance and hate mourn the dead
It is believing, it is believing
そして無知と憎悪は死を嘆く
それは信じること それは信じること

But listen to the colour of your dreams
It is not leaving, it is not leaving
あなたの夢の色に聞き入りなさい
それは別離ではない それは別離ではない

So play the game “Existence” to the end
Of the beginning, of the beginning
終わりまで「存在」のゲームをしなさい
はじめから はじめから

アベノミクスには出口がない

アベノミクスという言葉を見聞きするたびに、いったい誰がこの経済政策を立案し、誰がこのキャッチフレーズを考え出したんだろうと思ってしまう。
そして誰のための経済政策なのかということも。
アベノミクスに名前を冠された人物による立案とは到底思えないのが残念なところである。
彼はただのアナウンサーだろうか?
アナウンサーは示された原稿を忠実に読み上げる。
それが役目だ。
もしそうなら、誰がその原稿を書いたのか。

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【以下、東洋経済ONLINEより転載】

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小林慶一郎・慶応大学経済学部教授(左)VS. 橋爪大三郎・東京工業大学名誉教授(右)


――お二人のご専門は経済学、社会学と分野が異なるわけですが、共通して日本経済の将来を憂慮されています。お二人にまず伺いたいのですが、アベノミクスをどうご覧になっていますでしょうか。

小林:結論的に言ってしまえば、昨年はうまくいきましたが今年に入って停滞している感じです。少なくとも2013年は、かなり早いスピードで円安が進み、株価もかなり改善され、それに連動して消費も増えました。

――今年4月から消費税率が8%になりました。それによって消費が予想外に冷え込んでいますが、この点については、いかがですか?

小林:7月ぐらいから回復すると言われていたのが、8月になっても回復していないというデータがあります。ですが、いずれ回復する可能性が高い。その裏付けとなる指標の一つが、失業率の低下です。8月30日時点で完全失業率は3.5%で、就業者数は20カ月連続で増加。実際、建設業をはじめ、いろんな業界で人手不足が生じています。
もうひとつは、設備投資計画についてのデータです。これを見るとプラスとなっていますので、今後も円安が続いていく、あるいは需要が増えていくと企業が予想していることが分かります。
ですから、停滞感は出ているものの、今のところ日本経済は、いい方向に行っていると言えるのではないでしょうか。

橋爪:たしかに今のところ、アベノミクスはうまく行っているように見える。国民の大多数も、なんとなくそう思っている。でも、こういう時こそあぶないと思う。
うまく行っているように見えるときは、政策転換しようとは誰も思わないので、このまま進んでいくわけです。そして、アベノミクスの本質は、対症療法にすぎない。ところが、日本経済がいま抱えている問題点の多くは、構造的で長期的なものです。ならば、少しでも体力が残っているうちに、一刻も早く構造的な問題に取り組み、快復への道筋をつけなくてはいけない。
その途中で一時的に病状が悪化したら対症療法も必要ですが、何より優先すべきは構造的で長期的な課題です。端的に言えば、1000兆円を超える累積債務を何とかして、財政を健全化しなくてはいけない。
アベノミクスは対症療法のかたまりですから、個別の政策が、構造的な課題とどう結びつくのかみえない。日銀による「異次元の金融緩和」にしても、貨幣供給量を増やして景気がよくなったように見えるだけで、構造的な課題にはまったく届いておらず、むしろ危機は深刻化しています。それなのに、日本経済にかかわる多くの人びとが、構造的な課題を深刻に受け止めていない。対症療法が効いたと、喜んでいる向きもある始末です。これもまた、とても危険なことだと思う。

小林:安倍政権にしても、経済成長だけでなく財政再建も目指すと折に触れてアナウンスしていますが、諮問会議等での議論より先へはなかなか進まず、具体的な政策が伴っていません。
先ほど橋爪先生が言われたように、どのようにして「出口」へ辿り着くかという構造的な問題と、直近の問題にどう対処するかという対症療法とが関連づけられていない。しかも、今のところ対症療法がうまく行っているため、構造的かつ長期的な問題から、かえって国民の目をそらす結果となっています。

橋爪:その対症療法も、賞味期限切れではないでしょうか。
消費が伸び悩んでいます。消費税率を8%に引き上げたせいよりも、根本的には、財政再建策がはっきりせず、日本経済の先行きが不透明だからです。アベノミクスへの信任もぐらつき始めている。安倍政権の予想以上に急速な円安が進んでしまった。円安なら物価も上昇するわけで、食料品や工業原材料が軒並み値上がりしています。輸出が振るわない国内産業には打撃ですし、物価の上昇分は実質的な所得減となり、景気の足を引っ張ってしまう。

小林:今年に入ってからの安倍政権には、二つの誤算があります。
ひとつは、円安によって企業の輸出がもっと増えるだろうと考えていたわけですが、予想に反してそうならなかった。想像以上に、企業の海外移転が進んでしまった。輸出が増えるためには、まず、海外移転した企業が日本に帰ってこないといけない。しかし、企業が帰ってくるまでには、数年以上の時間がかかってしまう。
もうひとつは、円安による物価上昇が始まっているのに、賃上げがそれに追いついていない。周知のように安倍政権は、企業に対して賃上げをするよう要請していますが、企業経営者からすれば、財政問題などの懸念材料があるため、賃上げをするとか、新規事業のための設備投資をするとかいった判断ができない状況です。
その意味でも財政問題が遠因になって、景気回復の足が引っ張られていると言えるでしょうね。

橋爪:最近の現象として、消費の二極化が起こっています。デフレこのかた、価格の安い商品に人びとが流れていたわけですが、このところ、一部の高額商品が売れるようになった。これは高所得層が、株や不動産の含み益が出たおかげで、消費行動を変化させた結果です。アベノミクスの効果が、こうしたかたちで表れている。
だからといって、非正規雇用の人が正規雇用になるわけではないし、中高年を中心とする早期退職の流れに歯止めがかかるわけでもない。むしろ、大多数の国民にとって可処分所得は減りつつあるわけで、財布のヒモも固いままです。それによって景気回復の足が鈍ってしまうという構図に変わりはない。

小林:高所得者層の消費が活性化することで、中間層以下にもそれが波及するというのが政権の予想ですが、そうならない可能性が非常に高い。

――こうした中で、今年12月には消費税率を10%まで引き上げるかどうかが決まるわけですが、これについてはいかがでしょう?

橋爪:安倍政権は悩むでしょうね。おそらく、アベノミクスで景気を回復させ、第二段階として財政再建に着手するつもりだったのでしょうが、景気にそこまではずみがついていないと判断すれば、消費税率アップを先延ばしにしてしまう可能性が高いと思う。

小林:多くの経済学者は、予定通り増税すべきと考えていますが、政権に対する支持率とか選挙のことを考えると、安倍さんの周辺は、このタイミングで引き上げたくはないでしょうね。
いま、新たに「地方創生」というテーマが掲げられ、地方にお金を流すような公共事業がいずれ実施されるはずですが、そんな風にして景況感を改善した上で、12月に消費税率を引き上げるというのが、財務省のシナリオでしょう。しかし、政治家がそれに乗るかどうかは、分かりません。もしかすると「地方創生」で財政支出が増大する一方で、増税はしないという結果に終わるかもしれない。そうなったら、最悪の選択なんですが……。

橋爪:まるきりの時代錯誤です。「列島改造」や「ふるさと創生」の発想のまま、ばらまきで経済成長ができると思っている。日本経済のメカニズムはその頃と様変わりしていますから、効果がないばかりか、事態をいっそう悪化させてしまいます。

小林:1000兆円を超える累積債務をなんとかし、財政を立て直すには長期的なビジョンを打ち出し、国民を説得するプロセスが必要ですが、いま、それをやろうとする政治家はいません。どうしても、次の選挙で勝つことを優先してしまうので、10年先、20年先を見据えた長期戦略を国民に示し、責任を持って実行するということができない。

橋爪:政治家は次の選挙のことしか頭にないかもしれませんが、有権者はそうじゃない。30代の人なら、あと半世紀も生きていかなくちゃならない。もっと長いタイムスパンで、もっと常識的な判断ができるはずです。ただしそれには、きちんと、有権者に正しい情報を伝えなければならない。それが出来ていれば、政治家は有権者の声にしっかり耳を傾ければいい。
ジャパン・クライシスを防ぐのに、対症療法は重要じゃありません。対症療法をいくらやっても、長期的で構造的な課題には関係がない。構造的な課題を放っておくと、とんでもない事態になりかねない。

――お二人が刊行された『ジャパン・クライシス』には、最悪のケースも想定されています。

橋爪:対応を誤れば、かなりの確率で、ハイパーインフレに陥ると考えています。そうなれば、こつこつ貯めてきた貯金も一瞬のうちに失われ、年金制度も破綻。企業や銀行も次々と倒産し、多くの人びとが路頭に迷うことになる。そうならないよう、一刻も早く手を打つ必要があります。

小林:今の30代、40代、50代、60代の人は、そうした事態になったら、だれも逃げ切れません。そうならないよう、少しでも早く財政を立て直す必要がある。『ジャパン・クライシス』にも書きましたが、最近では、財政が健全化しなければ景気も回復しないという研究結果も、出ています。

橋爪:私たちが言っているのは、簡単なことです。誰でもわかります。政府は、国民の生活を守るために存在する。その、政治の原点に立ちかえって、目先のことにとらわれず、優先順位の高いことからしっかり実行していく。国民は政府にそれをしろと、はっきり声をあげることが重要です。

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当事者と非当事者

susa suigai


平成25年7月28日に山口県と島根県の県境で大雨が降り、水害が起こった。
島根県津和野町でも24時間での降水量が381.0mmという島根県観測史上最大の降水量を記録した。
山口側の県境に住む知人の町も大きな被害を被った。
おれのいる益田市とその町とは車で20~30分の距離だったが、幸い益田は大した降雨ではなかった。

そのときにおれは、災害地と被災害地の心理的距離を思い、当事者と非当事者との乖離を実感したのだった。
つまるところ、当事者になってみないとわからないことがあるということだ。
おれは某SNSに載っていた災害に関する記事に、当事者と非当事者についてコメントした。(たしかそうだったと思う)
そのとき起きていた災害についてというよりも、一般論として述べたつもりだった。
すると件の知人から、当事者でないなんて信じられない、益田もかつて水害に遭ったじゃないかという意味のコメントがあった。
たしかに益田は昭和58年に大水害に見舞われている。
だから想像力があれば、今回の水害に非当事者ではいられないんじゃないの?と彼は憤慨したんだろう。
実際に被害に遭っている最中に、一般論としての当事者と非当事者という概念はピンとこなかったのかもしれない。
以来、その知人とは会ってないし、何とは無しに軽蔑の念も伝わってくるようである。

益田からボランティアに駆けつけた人もいたし、ふだん通りの生活を送った人もいた。
おれも特にアクションを起こさなかった一人だった。

当事者と非当事者の間には深いクレバスが横たわっている。
おれはそのように感じている。
ただ、もしその知人から電話があり、「困っとるけぇ、ちょっと手伝いに来てもらえん?」と言われたなら、しらん顔はしなかったと思う。
その瞬間に、他人事では無くなったと思う。
そこらあたりに、深いクレバスを飛び越える意志が生じる秘密があるような気がしてならない。

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