撮影 : 野村ゆき
詩作 : Tomo Kusunoki
 

070

 

「我ら宇宙の子」

夜空を見上げると そう思わざるを得ない
どれほどの生命が存在しているのか
ロマンティックな気分になると同時に
哀しい思いも脳裏をよぎる
殺し合いは止まらない
海岸に打ち寄せる波のように
人という類のDNAに刻まれているもの
仏の顔と般若の顔
般若が勝れば共存できない
我ら宇宙の子
愛の本質を知りたいんだ
 

069

 

「滑走路」

二通りに使われる
飛び立つためと舞い降りるために
飛び立ちっぱなしというわけにはいかない
必ず羽を休める時が来る
反対に舞い降りっぱなしは可能だ
我々は地上に棲む者だから
でも それでいいのか?
受け入れることと受け身であることは違う
待てることと待つことは違う
幸運は待っていても来ないし待つ必要もない
今在ることに勝る幸運はないから
小型の旅客機が離陸態勢に入った
やがて再び着陸するとしても
それまでの道中を気ままに楽しもう
 

068

 

「居場所」

自分の居場所がないという人がいる
地球という空間の一部を占拠しているわけだが そういうことじゃないのはわかっている
人間関係という密林の中に居場所がないと感じているんだね
一番確かなのは自分自身が居場所だと認識できること
生きている限り他人に侵入されることもないし
そして居場所を少しずつ増やしていって地球サイズまで
やがては全宇宙サイズにまで拡大する
そうなると どこにでも存在できる
例えば この空瓶の中だっていいわけさ
そこが居心地の良い場所だと思えるなら
なんならしっかり栓をしてもらい
青い海原に浮かべてもらうさ
君は海流に乗って遠い異国まで運ばれるだろう
それって最高の居場所かもしれないな
 

067

 

「電送人間」

電送とは電波や電流を利用して写真・原稿などを離れた所に送ること
もし物質を電送できたら
もし動物を電送できたら
もし人間を電送できたら
物質を電波や電流に変換する装置ができた
送受信する装置もできた
電波や電流を物質に変換する装置もだ
電波や電流は光速と同じく1秒間に30万km進む
地球上なら瞬時に届く
交通手段として使えば物凄いことに
しかし旅の楽しみは無くなるね
過程こそ黄金だから
人生も同じ 道程こそ黄金
ある日 小型の送受信・変換装置が届いた
先日ネットで注文したものだ
小型だから一度に一人分の電送が限度だが それで十分
SNSで仲良くなったアメリカの友人が遊びに来たいというからさ
彼女と会うのは今回が初めてだから
ちょっとドキドキ かなりワクワク
彼女の送受信・変換装置と僕のをチャンネル同期させる
さあ電送を開始しよう
たちまち現れる人影がある
 

066

 

「決断」

ある日 川辺りを散歩してたら
空飛ぶ円盤が目の前にふわりと着陸して
光り輝く影がテレパシーで脳内にコンタクト
なあ 乗らへんか?
毎日毎日おもろいことないかなと思ってるやろ?
こんな地球なんて離れて わしらの星に来いへんか?
酒は旨いし ねーちゃんは綺麗
一瞬こころ惹かれたおれは思い直す
そんな誘惑に乗るもんか
おもろなくても住み慣れたここがええ
未知はやっぱし怖いもの
住めば都と言うじゃないですか
青年は荒野をめざすとも
あ 青年ではなかったか
それから光り輝く影は百万言を費やして説得を続けた
しだいにめんどくさくなったおれは
13秒後に結論を出すことにした
円盤に乗り込み未知な世界に向かうか
踵を返して平凡で退屈な日常を受け入れるか
さて カウント開始
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
 

065

 

「ネコまた曰く」

ほとんどの人が自分は本物だと思ってるわね
自信のなさをアクセサリーにして
あいつは偽物だけど自分は本物だと思ってる
そうしないと自分を保てないのね
それでいいんじゃないの
けどさ 他人を悪く言うのはいただけない
心のうちで思うのは自由だけど
人は人 自分は自分
他人の好ましい面を愛で そうでない面はただ観察する
そんな態度はクール そういう人はフリーマン
おっと あたしゃ本物だよ 黒猫の縫いぐるみじゃないわよ
 

064

 

「お揃い」

お揃いは嬉しい
お揃いは晴れがましい
あなたとわたしは特別な関係だから
お揃いのグラスを買いたい
さすがにペアルックとは言わないから
さりげなく腕時計でもいいけど
観光地の土産物屋に夫婦茶碗というものがあった
長年連れ添った夫婦が買うのかな
うっかり片方が割れたら さあ大変
それを天啓に別れることもあるかもね

お揃いは嫌じゃないが
お揃いは照れくさい
きみとぼくは特別な関係だから
お揃いのグラスぐらいは良しとしよう
さすがにペアルックは危険すぎる
さりげなくペア財布はどうかな
たまには評判の店に一緒にいきたいとねだられる
そうできれば そうしたいさ
ひょこり誰かに出会ったら さあ大変
つないだ手をどうするのかが岐路になる
 

063

 

「来し方」

同い年の旧友が自分の山で収穫した栗を持ってきてくれた
珈琲を飲みながら昔話をする
竹橋のパレスサイドビル内にあった中華料理店でのアルバイト
その軽井沢支店と近所の池のこと
共通の女友達との思い出
銀座の山野楽器で買ったツェッペリンの新譜
廃墟の壁に薪を背負った老人の絵が掛かっているジャケット
彼が自分の会社を設立するまでの詳細は今回初めて聞いた
47年間のエピソードが4時間に収まるはずもないが
こうして改めて語る機会は貴重だ
おれはインタビュアーとして けっこうイケてる
ある程度長く生きてくると 人生は淘汰されて
一本の刈り残された植物になる
その綿毛が風に乗って散るとき
彼は来し方の思い出を胸に旅立つのだ
 

062

 

「苦痛」

苦痛が窓辺の席に座っている
止むことのない痛みは心身を消耗させる
我が痛みを知って他者の痛みを知れというが
それは あくまで想像にすぎない
自分にしか この痛みはわからないという孤独感
わかるよーと言われても わからんくせにと思う
わかろうとしてくれる気持ちは嬉しいけれど
ふっと痛みが和らぐと すっと眠りに落ちていけるだろう
それはまるで あのときのように
それはまるで とっておきの楽しみ
苦痛が窓辺の席から立ち上がる
おまえはこれから どこに行くのか
 

061

 

「堕ちた言葉」

本来内包する意味の輝きが薄れてしまった言葉たち
耳にすると 目にすると 虚しさを覚える言葉たち
おまえらに責任はないぜ
汚れたマントを着せたのは俺たちだから
そういうときには どうすればいいんだろう
なにか他の 的を得た気の利いた素敵な言い方を発明するか
言葉は記号であり音だけれども
人間の脳内で あらゆるものとして現れる
言葉で言い表せないこともあるにはあるが
言い表そうと努めることは続けたいんだ
堕天使は天上から追われ地上でさまよう
堕ちた言葉は いったん地中で雌伏し
野にある花が咲くように ふたたび雄飛する
 

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