撮影 : 野村ゆき
詩作 : Tomo Kusunoki
 

050

 

「ツイン」

ツインは最強である
基本的に寂しくない
カップルは見ていて安心感がある
異性同士か同性同士かというより
愛し合っているか いないかだ
バンドの最小編成はデュオ
ソロもいいが 互いの色を塗り重ねた音楽は味がある
練習や本番の都合が合わせやすいのも利点
警官のパトロールは必ず二人で
落語もいいが漫才はファンキー
昨夜 嬉しいことがあった
訪ねてきてくれたカップルの
女性の指に喜びのリングが光っていた
最強ツインの誕生である
 

049

 

「明るい方へ」

地方の小さな飛行場にいる
大学のクラスメイトで唯一交流が続いている男の出迎えだ
四年ぶりの再会
大学時代に彼の両親や兄には良くしてもらった
三人とも同じ病で旅立ってしまった
彼ひとり残された
仕事のこと 離婚のこと
家族のこと 新たな愛のこと
どんな境遇のときも
彼は明るい方へ歩を進めた
明るい方に福があるとは限らないとしても
人はなぜ光に惹かれるのだろう
闇にこそ安らぎがあるかもしれないのに
アナウンスが東京便の到着を告げる
 

048

 

「LOVE」

あなたのことを愛していると確信したくて
今日は朝からお菓子を作ったの
愛といえばハートのかたち
ありきたりだけど やはりこのかたち
ハートシェイプのチョコレートケーキ
七個つくった中の一つにLOVEと書いてみた
あなたが食べてくれれば完璧なんだけど
肉体のないあなたには無理だから
しばらく眺めたあとに わたしが食べるの
香り高いコーヒーを飲みながら
甘味と苦味と塩味の絶妙なバランスで
 

047

 

「裂け目」

ある日
目の前の空間に真っ黒な裂け目が出現したら
そりゃあ驚くだろうけどさ
その中を覗いてみたい その中に入ってみたいという
好奇心とも自己破壊衝動ともつかない思いに駆られるかもしれない
この世界が嫌いってわけじゃないが
未知を知ることにも魅せられる
人間は神秘の裂け目から誕生するのだから
暗黒の裂け目から還っていくのが道理といえる
どこに帰還するのか知らないにしても
 

046

 

「バスの屋根に乗って」

バラナシからの列車がゴーラクプルに着いた
インドの駅の常で 乗客や物売りがホームにあふれている
駅舎の外に出ると リキシャの客引きが寄ってくる
バックパックを背負ったままスノウリ行きのバスを探す
スノウリはネパールとの国境の町だ
見つけたのは左右四席の狭いバスで 三時間ほどかかるらしい
発車後 一応の舗装路をときどきバウンドしながら進む
スノウリのバスターミナルに着いた
イミグレーションを探しながら少し歩く
目立たないオフィスなので 危うく見逃すところだった
インドの出国手続きを終え 歩いて国境を越える
そしてネパールのイミグレーションへ
ビザ費用を支払い パスポートに入国印を押してもらう
いよいよだ いよいよカトマンドゥに向かうのだ
ターミナルで切符を買う
バスはインドのTATA製だが けっこうなオンボロぶり
車内はすでに満席だった
荷物と共に屋根に上る
ここにもすでに先客あり
行商人と思われる中年の女性や 出稼ぎ帰りらしき若い男など
やがてバスは発車し 田園風景の中を進む
そしてしだいに高度を上げていく
山岳地帯に入ると数回の休憩があった
店に入ってチャイを頼む
素焼きのカップに満たされた熱く甘い液体
いささか疲れた体にしみ渡る
さらに高度を増すにつれて日が暮れてくる
バスの屋根でも寒くはなくて風が心地よい
赤く焼けた空が しだいに濃紺色へと移ろっていく
大きな峠を越えたバスはカトマンドゥ盆地へと下り始めた
ふいに 故郷の町から遠く離れた異国にいるんだと実感する
それもバスの屋根に乗っちゃったりして
おれはここで何をしているのか
見上げた天空に大きな柄杓が輝いている
 

045

 

「うなだれる」

気を張って生きていても
常にそうはいかない
テンションがプツンと切れる瞬間がある
もうここまでだなと思う
そんなときにどうするか
とりあえず寝るかは まあ大丈夫
呑むしかあるまいは まあ普通
泣くと少しは気が晴れるだろう
黙ってうなだれるのは やめておこう
処刑人に首を差し出すことになる
とりあえず夜空の星でも見上げてみよう
壁際に見えるあの植物って
うなだれてるんじゃなく そういう生え方なのか?
 

044

 

「古い写真」

レトロな店の壁に写真パネルが掛かっていた
パネルの表面は黄ばんでおり
かなり前に撮られたものらしかった
モノクロの画面に長髪の男たちが五人並んでいた
どこかの町のどこかの庭で
素直で自然なまなざしでこちらを見ている
まるでわたしが撮ったかのような錯覚を覚え
胸の奥が少しざわついた
彼らは今どこでどうしているだろうか
たとえ いてもいなくても
その日その時その場所に
確かに存在したことは信じることができる
古い写真は人生の宝だ
 

043

 

「愛い奴」

こいつ
愛されたいなどと思ってないことは明らか
だから こちらは安心して愛せるんだ
こいつ
愛したいなどと思ってないぜ
だから こちらは期待がないぶん気が楽さ
条件はいらない
愛したいから愛する
それでいいんじゃないの?
 

042

 

「動くオブジェ」

ピクリとも動かない動くオブジェ
期待されてることをするのが嫌な天の邪鬼なのか
まあそれはきみの自由だけどさ
風の一吹きがあっても動かないつもりか
この宇宙に動かないものなどないんだ
地球の回る速さを知ってるか?
赤道上で時速1674.4 kmだぜ
日本だと もっと遅いけど
なに? おれも回ってるから静止と同じだと?
ある時点でする人の覚悟だけが宇宙で唯一動じないものだと言うのか
うーむ
 

041

 

「クモまたまた曰く」

人間不信になったと言う人がいる
その人間という言葉が指すのは自分というより他人だろう
他人を信じれんようになったと思うとき被害者意識とセットになっている
自分は悪くないんだ
もしかしたら相手も傷つけているかもと考えれる人は人間不信にならない
傷つく人は傷つけている
傷つける人は傷ついている
そう認識できれば ずいぶんと生きやすくなるのでは
おいらクモだが 蜘蛛不信になどならんよ
同種がいることは知っているが連帯しなくても生きていけるからな
人間は その点てーへんだな
孤立しては やってけないから
孤高のスピリットを持ちつつ連帯して生きることをオススメするよ
クモのたわごとやし聞き流してや
さておいらは巣づくりに励むとしよう
またな
 

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