フォトグラファーと書き手の気ままなコラボ

撮影 : 野村ゆき
詩作 : Tomo Kusunoki
 

040

 

「心配事」

誰も一つ二つは心配な事情を抱えているだろう
それから目を逸らせても それが消え去ることはない
今この現実があり 一瞬先は霧の中
だったら心配事を味方につけよう
ロールプレイングゲーム
次々と現れる課題をクリアせねば次に進めない
人生も同じだと考えてみよう
ゴールが目的だとしても
クリアする行為そのものが面白いんだ
心配という言葉
なぜ心を配るとなっているのか
自分が配るというより配られるのでは
心配事は霧の中に見えてくる道標なのかもしれない
 

039

 

「バンド」

窓際のカウンターに座ると 目の前に葡萄の木が見える
葡萄の一房ってバンドみたいね ときみは言う
目立つメンバーがいるより バンドとしてまとまっている方が好きなの
フロントマンは目立つけど それは役割として
バンドシンガーのソロアルバムって たいていつまんないでしょ?
ストーンズがいい例よ
あなたは どうなの?
バンドの一員として在りたいの?
それともディランみたいにソロとして?
バンド編成でも ソロとバックバンドってスタイルね
バンドにはメンバー間の確執が付きものだ
確執を乗り越えて長続きすることもあれば 解散してしまうこともある
まるで夫婦みたいじゃないか と言ったら的外れかな
 

038

 

「恋する指輪」

指輪は初めてはめてくれた持ち主を恋しがるという
持ち主がもうこの世にいないとしても
通り魔に襲われた
指輪は消えていた
時効が成立したが 夫は探し続けた
怒りや恨みや悲しみを抱えて生きるのはキツい
後を追いたかったが その前にやることがあった
海辺の小さな町にあるセカンドハンドショップ
指輪が一つ 静かに待っている
 

037

 

「枝」

一つの枝を見ると
木のすべてをわかった気になる
木の名前を間違うことはあっても
枝と本体は一致しているから
情報はそうはいかない
人の発する言葉の内容は
前後の文脈から捉えないと真意がわからないことがある
発言内容の一部を抜き出して
その本意とは真逆な印象を発信することは可能だ
写真や映像も同様である
そのことは覚えておきたいと思う
ライムグリーンを背景に風と戯れる枝
あの木は えーと なんだっけな
 

036

 

「スイカ」

三時間後に世界が終わるとしたら
最後に何が食べたい?
きみは唐突にそう言った
例年になく暑い夏の午後
好物はいろいろあるにしても この暑さだから
真っ先に脳裏にうかんだのはスイカだった
よく冷えたやつを三角形に切って
塩をパラパラふりかけて
赤・黒・白・緑の配分が絶妙な自然のめぐみ
頂点をサクッとかじると
冷たい甘さが口にひろがる
その心地よさを手土産に
そばにいるきみに口づける
 

035

 

「ブランコ」

世界で一番最初にブランコを考案したのは いつの時代のどこの誰だろう
ブランコを見かけるたびにそんな疑問が生じるおれの頭はたぶん狂ってる
それまでこの世に存在しなかったものを思いつく人は
同時代に同時発生すると思う
アインシュタインは例外かな
もしかして人知れず裏アインシュタインがいたかもしれないが
夜の公園で一人ブランコに座る中年男
わびしさの象徴なんかじゃないぞ
たまたまベンチがふさがっていたのさ 若いカップルで
同性同士だったけどな
ブランコを漕ぐ姿が似合う大人は好きですか?
高倉健はそもそも乗らないだろう
田園風景にたたずむ喫茶店の庭にブランコがあった
大きな木の枝から下がっている
世界で一番最初に考案したのは おれじゃないけど
世界で一番幸福な気持ちで乗ってみよう
なぜかそう思えた夏の午後だった
 

034

 

「こころにかかった鍵」

幼子のこころに鍵はかかっていない
世界への出入りは自由
彼らにとって
世界は自分で 自分は世界だった
それが いつの間にか
閉じ込められてしまった
こちら側にいても五感は働いている
けど 第六感は微弱だ
世界が在る意味がわからなくなった
いや そんな認識さえ失われた
誰が鍵をかけたのだろう
こころの鍵穴にぴったりはまる鍵
それを見つける旅に出よう
こころの鍵穴に合鍵はないらしい
ぴったりはまる鍵
それを見つける旅に出よう
 

033

 

「温度計」

博物館の内部は涼しかった
昭和時代の日用品を展示してある部屋に入った
四季ごとに分かれており 今の季節と同じコーナーに進んだ
展示品の中にレトロな扇風機と温度計があった
温度計の水銀柱は25度を指している
昭和時代には暑いといっても最高32度くらいのもんだった
そうおじいちゃんが話してくれたと祖父から聞いた
ぼくから四代さかのぼった時代には夏休みというものがあった
学校に行かなくてよいが宿題は出された
朝の涼しい時間に近所の広場に集まってラジオ体操をやり
そのあとちょっと勉強してから川で泳ぐ
昼ごはんにいったん帰宅し そのあとまた川に
そんな話を聞いても信じられない
今そんなことをしたら熱中症で亡くなる子供が続出だろう
夏の平均気温は40度を越えている
屋外作業はロボットが担い 人間は冷房の効いた屋内にいる
国の発電能力維持は安全保障の最たるものだと習った
地球は温暖化している いや氷河期に向かっている
議論は続き 気温と海水温は上がる
町でこんなポスターを見かけた
日本の夏 緊張の夏
 

032

 

「風景の向こうに」

ふと目を上げるとガラス窓の外に葡萄の枝が見えた
緑の葉と緑の房が風にゆれている
唐突に彼女を感じた
姿形ではなく印象のようなもので
けれどそれはリアルだった
そばにいても一緒にいないと感じる
そばにいなくても一緒にいると感じる
木漏れ陽の煌めきはあなただ
わたしはわたし自身を感じたい
この風景の向こうに
 

031

 

「クモまた曰く」

見てくれよ この見事さを
空間アートとでも呼んでほしいアクロバットさを
素晴らしいデザインだろ?
おいらだけで作り上げたんだ
エヘン
美術スクールになんて通ってない
師と仰ぐ存在もいない
なのになんで こんな美しいものが作れるのか
あんた その理由がわかるかい?
おいら自身にも わからないことさ
そうしなきゃおれないって気になるのさ
本能ってやつですか
いったい誰がプログラミングしたのか
地球のすべての生命体の見事さ
食物網のメカニズム
不思議やなー
どうなってんやろなー
おいらだって たまにはこんなこと考える
けど 獲物が網に掛からにゃ始まらない
あんた 棒を持ってどうするつもり?
せっかくの作品を払わんでくれよ
頼むからさ
 

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