フォトグラファーと書き手の気ままなコラボ

撮影 : 野村ゆき
詩作 : Tomo Kusunoki
 

020

 

「秘密」

自分だけの秘密
二人だけの秘密
家族だけの秘密
特定組織だけの秘密
特定共同体だけの秘密
秘密は守られてこそ秘密たり得る
一番守られやすいのは自分だけの秘密
一番艶っぽいのは二人だけの秘密
それ以外は血の匂いがする秘密
秘密は月の出ない宵のようなもの
事実は暗闇にまぎれている
だが秘密は暴かれたがっている
控えめに雲上で光る月のように
 

019

 

「鮫の夢」

あるとき海面に浮上すると
真っ青な空を背景に一羽の鳥が飛んでいた
その鳥は鳴き声ともつかない異音を放っていた
おまけに翼からは白いものが後方に吐き出されている
かっこいいと思った
海中では おれの泳ぎもなかなかだ
速さも負けたことがない
けれども あの高い場所で自由に泳いでみたい
一度そう思い込むと 来る日も来る日も そのことばかり
いつの間にか数年が経った
ふと気づくと体の様子が変だ
皮膚がさらに硬くなり
胸ヒレが水平方向に大きく迫り出してきた
第二背ビレと尾ヒレも発達している
これは! ひょっとして!
そして 決行の日がやってきた
雲一つ無い晴天である
おれは意を決すると 棲み慣れた大海原を離れて飛翔する
ぐんぐんぐんぐんと大空に向かって
 

018

 

「言葉」

他者の目を意識した言葉は どこか虚しい
思惑が透けて見える
かえって沈黙の方が伝わるのになと感じることがある
立派な言葉 いわゆる正論
それらが偽善に思える場合がある
それは受け手の問題だろうか
止むに止まれぬ思いで発せられた言葉は
人目を気にする余裕がない
だから正確に伝わるのだ
可否の判断は人それぞれだとしても
向日葵も人目を気にせず咲いている
 

017

 

「デジャヴ」

その風景を見たとき時をワープした気がした
かっての夏の夕刻に
太陽は水平線間近にあり 光の道が岸に向けて伸びていた
海の上空はオレンジから水色へとグラデーション模様
雲は西方浄土を彷彿させる
夕陽をバックに海水浴客がシルエットで点在している
しかし気がしただけで この景色を見るのは初めてだった
記憶というものはあてになるのか
他者の記憶と何かの拍子にシンクロするってことはないのか
きみはぼくの目で過去のこの海を見ている
ぼくはきみの目で未来のこの海を見ている
二つの時は同時に存在している
 

016

 

「かぐや」

おまえは月から来たのよと祖母が言う
竹林で倒れておったと祖父がうなずく
わたしは静かにほほえむ
もう諦めているのだ
元の世界に還ることは
わたしの過去は遠い未来にある
 

015

 

「百点満点」

生まれたばかりの赤ん坊は百点満点だ
先輩たちの手を借りねば生きていけないとしても
赤ん坊は良い匂いがする
それだけで百点満点だ
赤ん坊という存在が地球を浄化する
たいていの人が笑顔になる
たいていの人が未来をみる
それだけで百点満点だ
愛という感情を体験したいなら
赤ん坊を抱いてみたらいい
その柔らかさ 瞳の輝き
小さな足 小さな手
それに笑い声が加わると
もう百点満点に決まってる
 

014

 

「線香花火が消えるまで」

ほんとにいるなんて思いもしなかった
映画やコミックの中にならわかるけどさ
殺し屋
おれみたいな平凡なサラリーマンに何の用だい?
誰かの恨みを買うことってしたっけな
そりゃ傷つけたことが一度や二度はあったかもしれない
けど生命を奪われるほどのことなんてしてないぜ
たぶん
薄闇の中で そいつは落ち着いた声で言った
この花火が燃え尽きるまで猶予をやろう
そうして差し出された一本の線香花火とライター
銃口が後頭部に当てられている
選択肢は無い
少しでも長く生きていたい
そう切実に思ったのは初めてだった
震える手でライターを持って点火する
カチッ
小さな光が黒い背景に揺れる
そして花火に火を移す
細長いコヨリの先端から閃光が弾けた
輝くマグマ球から全方向に放射される光の針
こんな美しいものを見たことがあったろうか
過去の出来事が高速で映写される
それは本当だった
マグマ球の輝きはしだいに弱まっていく
それが完全に消えたとき
衝撃と同時に闇が来た
 

013

 

「十字路」

十字路に立ち 空を見上げた
欧州の中世のような空模様だ
磁石を当てにするのか
風の流れに従うのか
行きたい方角に向かうのか
敢えて気が進まぬ選択をするのか
生きることは選択をし続けること
あのときああすればよかったかな
あとになってそう思わない人はいないだろう
黒いフード付きコートを着た男がやってきた
近づいてきて地底から聞こえるような声で言う
今日おれは機嫌がいい
おまえに特別に教えてやろう
あのな 自分に望ましいことを受け入れる勇気を持つんだ
望まないことは受け入れ易い
意外に思うかもしれないがな
みんな ほとんどの時間を心配に費やす
起こってほしいことを思い続ける必要はない
ただ受け入れればいいのさ
さて わしの気が変わらんうちに立ち去るがよい
もうすぐロバートという男がやってくる
 

012

 

「滴」

ある雨の朝 傘をさして庭に出てみた
針葉樹の葉先から滴が落ちていた
一滴落ちると葉先はまた水を湛えはじめる
表面張力で美しい滴のかたちになると
ふたたび地面に向けて落下していく
滴に目をこらすと
辺りの景色が映っているのが見える
近寄ると私もその中にいる
瑞々しい水の力で十歳くらい若返ればいいのに
なんてね ちょっと思ってみたり
幸せはいつも寄り添っていてくれる
私がそれに気づくのを待っている
悲しみに沈むときにも
絶望に震えるときにも
明日を見失なったときにも
そう どんなときにも
 

011

 

「あらわ」

あらわになっても美しいか
あらわになったら見窄らしいか

あらわな心で付き合いたいか
あらわになるのは死を意味するか

あらわなからだで愛し合うか
あらわにするほど自由度は増すか

あらわになるには自尊が要るか
あらわは哀れの隠蔽的擬態か

あらわになった小さな植物は
あらわで在ることの美徳の体現だ
 

page top