求職ぶるぅす 9
道路に沿って海へと流れる川の水面に陽光が反射して煌めいているのが見える。なんとか無職状態から脱け出して、おれの懐もキラキラと輝やかせたいもんだと思いながら、眩しい夏の午後を走っていった。
市の中心部に入った辺りで信号待ちしていると、メールの着信音が鳴った。ユリからだった。森林組合決まるといいね、うまくいくようにおまじないしといたげる、と書いてあった。
きっと、そのおまじないが効いたのだろう。三日後に採用の通知があった。
平日だというのに、ホームセンターの中はけっこう混んでいた。おれは、明日から始まる森林組合の仕事に使う道具を買いに来ている。まず鉈鎌(なたがま)と、腰に装着するホルダー。それから手袋。次に長靴と雨合羽。それらを探してフロアを歩き回っているうちに、おれは少しずつ肉体労働者に変身していく自分を感じていた。
それから商品の並んだ棚をしばらく物色した。そして、購入予定の品で買物カゴが満杯になったので、レジで支払いを済ませ、ホームセンターを出た。
野球場やサッカー場のあるスポーツ公園の脇を通って、県東部に伸びる国道に合流する信号で待っていると、左折車線に軽トラックが止まった。運転席には頭にタオルを巻いた若い男が乗っており、荷台には工具箱らしきものが積んであった。きっと、どこかの建築現場から帰る途中なのだろう。肉体労働者が醸し出す独特の雰囲気が、明日からの自分を連想させ、全身に軽い緊張が走った。
やがて信号が青に変わって、おれは右折し、軽トラックは左折した。対向車線を走ってくる車のフロントガラスに西日が赤く反射している。仕事の初日は幸いにして晴れそうだった。どんな仕事と同僚が待っているのだろうと思うと同時に、おれは今夜の献立を何にするか考えていた。
朝日に照らされながら、おれは指定された時間の8時少し前に海端の防風林に着いた。砂利道の路肩に駐車して車を出ると、向こうの方に男達が集っているのが見えた。おれは車のトランクを開け、鉈鎌を差したホルダーをベルトで腰に装着して、ヘルメットを被った。そして作業用の皮手袋を手に持って歩き始めた。道の左右は小高くなっており、両方に松林があった。右手の松林を抜けると海に出るはずだった。
おれは男達に近づいて挨拶をした。先日の面接時に見覚えた顔もあった。彼らは一様に日に焼けた肌をしていて、ゆったりとした作業服を身に着けている。足元は、地下足袋がほとんどだ。おれは黒いレザーのバスケットシューズを履いてきた。彼らの中の数人は、傍らに苅り払い機を置いていた。自前のものを持参したのだろう。
地面に腰を下ろしてしばらく待っていると、一台の軽トラックがやって来て、おれたちの前に停まった。すぐにエンジンが切られ、中から石川課長が降りてきた。彼は、おはようございますと挨拶したあと、今日からの作業について説明しますと言った。おれたちは立ち上がり、課長を中心に半円に並んだ。
「五日ほどかけて、切り倒してある松を所定の場所に集める作業をしてもらいます。所定の場所というのは、要するに適度な間隔をとって置くということですが。太い幹の部分と枝葉は別々にお願いします。作業エリアはこの道の陸側一帯です」
課長は右手を上げて、指し示しながら言った。おれたちは課長の指先につられて視線を動かす。
「その作業が終り次第、ここから海寄りの防風林に道をつけてもらいます。海と平行に何本かの道をつけることになります。その際にチェーンソウと苅り払い機を使用しますが、持っていない人は、切り倒した木を片づける作業をしてください。鉈鎌は使うことになると思います。以上です。何か質問はありますか?」
「燃料は用意してもらえるんかね?」と背の高い男が訊いた。
「もちろんです。必要なときに持ってきますよ」
課長は、かけている眼鏡の縁を右手で押し上げた。
それ以上の質問が出ないことを確認して課長が去ったあと、おれたちはさっそく作業にかかった。松林は砂地にあり、松くい虫にやられたものが切り倒されていた。その倒木の枝を切り落とし、本体と枝とを別々の場所に置く作業だった。
松の丸太はけっこうな嵩と重さがあるので、八人いたおれたちは二人一組になった。おれと組んだのは七十歳くらいの人で、横山という名だった。七福神の一人であるえべっさんみたいな福々しい顔をしている。
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