和菓子づくりの道具たち / 練る


○リードコピー
 ものを作る最良の道具は手である。言い得て妙ですね。でも職人たちが使う道具も、まさに手の延長なんです。新シリーズでは、彼らが使いこなす和菓子づくりの道具をご紹介します。

○本文
さて、幾種類もある和菓子づくりの道具の中には、和菓子の歴史的にみて面白い名前のものがあります。坊主(ぼうず)と閻魔(えんま)がそれです。坊主は柄がついた丸底の銅鍋のことで、閻魔は杓子(しゃくし)の巨大なやつです。和菓子の味と美を追究する職人たちの日常から自然と生まれた呼び名でしょうか。職人魂の粋とユーモアを感じさせるネーミングですね。

この杓子と銅鍋は、菓子づくりにおいて練りに使われます。餡を練るとき、羊羹などの流し物を練るとき、そして葛やワラビ粉を練るときなどなど。

三松堂で使われている杓子の大きさは、短いものが30センチ余り、長いもので約1メートル、そしてこの中間に様々なサイズがあります。たとえば当店を代表する菓子である「鯉の里」を練り上げるのに、三つの異なったサイズを使い分けます。また、同じ大きさでも用途によって違うものを使用します。職人には各々が愛用している杓子があります。職人は感覚(勘)に基づいて使っており、使い込むうちに、その人に合った仕様になってくるから、他の者が使うことはありません。

次に銅鍋についてですが、これも用途に応じて数種類のサイズがそろっています。一番大きなものは直径66センチ、深さ34センチあります。最小で直径26センチほどですが、やはりおいしく作れる量というものがあり、これ以下は使われません。

ところで、材料を練るのに必ずしも人の手を使うとは限りません。機械に任せられるところは任せる場合もあります。餡練り機というのがありますが、大きな銅鍋の上部に餡を練るためのメカが設置されています。このメカは複雑な動きが可能で、最適な状態の餡ができるよう工夫されています。

手作りというと、実際に人の手をもって、あるいは杓子などの道具をもって作るというイメージがありますが、職人の手にかかると、機械も手の一部になってしまいます。手と同じように使いこなすために砂糖の量を調節したりします。

このように、練るという和菓子づくりの一工程をとってみても、いろいろな道具が使われます。おいしく美しい和菓子が出来上がるまでには、さらにその種類は増えていきます。

○鯉の里(こいのさと)
極上の赤小豆、寒天、砂糖のみを使い、秘伝の製法でつくられるベストセラー。さくっとした歯ざわりと口溶けのよさ、さらっとした甘さが世代を問わず好評で、小振りな姿は茶菓としても最適です。

○花游菓(はなゆうか)杏
小麦色に焼けたパイ生地の中には、ほど良く甘い白あんとスイートでサワーな杏が。控えめで和に優れた白あんが杏の味を引き立てています。ちょっぴり香るバターがハイカラな、洋風和菓子の逸品です。

○私の役割(プロフィール)
三松堂工場長 : 石井 進
和菓子職人。57歳。山口市出身。高校卒業後、神奈川県の神戸製鋼に入社。高校および社会人野球で活躍。結婚後、地元に戻り、24歳で三松堂に入社。以後、30年に渡り店主三代の右腕を務める。趣味は社交ダンスで、詩吟の師範代でもある。

○私の役割(リードコピー)
三松堂の味とブランドに対する責任を全うすること、それが私の役割です。ほんとは役割に上下なんてなく、ただ責任があるのみ。でも、それが難しい(笑)

○私の役割(本文)
仕事をする上での心構えですか? そうですね、旨い菓子を作るということに尽きますね。私は三松堂に入ってからずっと、そのことを考え続け、試行錯誤してきました。まず材料なんです。高価なものも使いますが、高ければいいってもんでもない。安くても安全で最適なものがあります。それを見つけだす、そして菓子づくりの下ごしらえをする。それも私の大事な役割です。仕事を通じて喜びを感じるときは、やはりお客様においしいと言われることですね。反対に大変なのは手間暇がかかること、そしていかに伝統を守っていくかということです。一つ一つの菓子にファンを作りたいですね。誰がどういった形で食べても、おいしいと言ってもらえる菓子を作るのが夢なんです。

○写真のキャプション
よく磨き込まれ、赤銅色に輝く銅鍋と、いろんな長さの杓子たち。職人の手と一体になったこれらの道具から、おいしい和菓子が生まれてきます。

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